含水率20%の本当の意味
乾燥材として注文した木材が注文どおり乾燥されているかどうか確認しようとするとき、業者は水分計を使います。含水率15%以下と表示されればOK15%以上なら問題あり。20%を超えれば乾燥不良です。そこで質問です。いまここに内地桧の試験材1M3があって水分計をあてたところ含水率20%を示しました。桧の全乾比重は0.4です(水分を全く含まない状態の比重)。この場合正しいことを言っているのは次のどれでしょう。
A この試験材は容積比で20%の水分を含んでいる。
B この試験材は容積比で8%の水分を含んでいる。
C 試験材の重量は480キログラムである。
正解はBとC。Aは×。ちょっと意外でしょ。一般的常識と違って木材の技術用語で含水率とは全乾時の重さに対する比率と定義されているからです。したがって試験材の重さが1M3あたり480キログラムなら含水率は、(480-400)/400=20% となります。
しかしこれは誤解を生む定義だと思いませんか?木材業界の人でさえ含水率の定義を知っている人は少数派でしょう。いわんや一般の人にこの定義を強いるのは無理というものです。なぜなら日本語で含水率といえば全体にしめる水分量の比率と理解してあたりまえですから。含水率20%なら20%の水分を含んでいると理解するのが普通でしょう。ですからある材の含水率が120%などといわれればびっくりします。水分比率で100%以上はありえませんから。ところが重さの含水率では100%以上はありえます。例えば試験材の重さが880キログラムなら(880-400/400120%になります。
いずれにせよいくら定義上正しくとも誤解を生みやすいなら適切とは言い難いでしょう。そこで重量比の含水率を水分比率の含水率に変える方法を考えてみました。

 木材組織のしくみ
この計算をするためには木材組織の基礎的な理解が必要になってきます。知ったかぶりのような話でごめんなさい。しばらく我慢してください。
木材組織はダンボールの板紙を丸めたようなものです。強靭な壁と空気層によって出来ています。壁はダンボールでいえば紙の部分、主要材はセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンです。空気層は断面から見てダンボールの穴です。木材の樹種は数え切れないくらいあります。しかし各木材の物理的な特長はこの壁と空気層の比率によって大勢が決まってきます。おおまかにいえば空気層の多い木材は軽くて断熱性が高い。壁比率の高い樹種は強度があります。総じて針葉樹は前者。広葉樹は後者に属します。壁の内部水分を完全に抜いた固形部分の比重はすべての樹種についてほぼ1.5と一定です。このことは意外と知られていません。繰り返しますがすべての樹種の固形部分の比重は1.5前後と大差ありません。重い木材は木材繊維が重いのではありません。空気層が少ないのです。逆に軽い木材は空気層を多く含んでいる、その違いです。

 重さ比を容積比の含水率に変換する
以上の木材の構造がわかれば重さ比から容積比率への含水率の変換計算ができます(この容積比率の含水率をここでは水分比率と呼ぶことにします)。
固形部分の比重が1.5。木の比重が0.4ということは、いいかえると桧の固形部分と空気層の合計容積は固形部分の3.75倍(1.5/0.4)、その比率は12.753.75-1)ということです。正しいかどうか確かめてみましょう。全乾のとき空気層の重さは0、固形部分1の重さは1.5です。従って(1.5+0/3.750.4(全乾比重)となります(A式)。そうすると空気層2.75の容積のなかにどれだけの水分が含まれているかを重さ比の含水率から割り出すことによって容積の含水率を導き出すことができます。
計算してみましょう。含水率20%のときの重さは0.48A式より空気層の水分率Yを求めます。
1.5(固形部分重量)+2.75×Y/3.750.48
Y0.109
水分を含んだ空気層の重さは2.75×0.1090.2998です。
水の比重は1。ですから容積も0.2998
すると水分比率は0.2998/3.75=8
含水率20%の試験材の水分比率は8% 含水率120%なら水分比率は65%です。木材に含まれる容積の含水率(水分比率)は、一般的な含水率よりずっと小さいことがわかります。

 木材乾燥の急所
ところで昔から木材は乾燥して使えといわれます。木材は乾燥の途中で収縮しますので割れや狂いを避けるには乾燥が必要になります。この収縮・膨張は水分率の変化によって一様に起こるわけではありません。壁内部の水分率に変化があるときのみ収縮・膨張がおきます。ダンボールを例にとれば穴にたまる水分が増えても減っても関係ありません。紙内部の水分が減り始めてはじめて収縮がおこります。また木材の乾燥は穴の中の水分がなくなったあと紙内部の水分の減少にすすみます。したがって穴の中にたっぷり水分を含んだ生材の状態から穴の中の水分が完全に無くなるまでの間、乾燥が進んでも木材の収縮は発生しません。また割れは表面と内部の壁の収縮が一様でないために起こります。したがって収縮がなければ割れません。だから割れもこの間は発生しません。ちなみに穴の水分が完全になくなり壁内部の水分が100%充満しているこの状態を繊維飽和点といいます。この時の含水率はどの樹種についても一様で含水率30%前後とされています。水分比率だと12%です。
繊維飽和点から乾燥が進むと収縮がはじまります。急激に乾燥がすすめば割れが発生しやすくなります。しかし自然状態での乾燥はやがて大気の気温・湿度とバランスとれる状態に達するとそれ以上進みません。この状態を気乾状態といいます。日本の気候下では含水率15%前後。水分比率なら6%です。
おわかりになりますか? ダンボールを例にとった方がわかりやすいかも知れません。穴の中の水分は増えても減っても寸法変化は起こりません。しかし外側の壁内部の水分がなくなり始めると収縮がおこり、ぐるぐる巻きにした芯に近い箇所の壁が比例して縮小しなければ表面に亀裂が発生してしまいます。一度平衡含水率に到達すれば、その後は温度と湿度の環境変化によりごく僅かに含水率が変化するだけ。大きな狂いや割れはもはや発生しません。従って繊維飽和点にあたる含水率30%を平衡含水率15%に下げるところが乾燥の正念場です。同時に割れ、狂いという乾燥による損傷が発生しやすい難所でもあります。水分比率でいうと12%を6%にさげる、たった6%下げるだけのことなのですが。 

 乾燥のしやすさには樹種によって大きな差がある
丸太はその断面からみて中心に近い心材と外側に近い辺材の2層にわかれています。辺材は生きている部分で栄養の貯蔵場所であり養分の通路になっています。心材は死んだ残骸のようなものです。生木では多量の水分を含んでいますが更に辺材と心材では大きな差があります。たとえば内地杉の生材含水率(立木または倒木直後の含水率)は、辺材148159% 心材55113%。桧なら辺材153%、心材34%です。辺材の含水率は両方との150%以上と極めて高い。一方心材の含水率は、桧は34%であるのに杉は最大113%です。いま生木を心材主体に製材したとしましょう。その場合杉なら平衡含水率の15%におとすために最大98%下げなければなりません。ところが桧なら19%ですみます。大変な違いですね。
下の表をご覧になれば生材の含水率が木によって如何に違うか、ご納得いただけると思います。この違いは即、木材乾燥のむずかしさ、やさしさの違いに直接つながります。広葉樹では樹種によっては心材の方が辺材より含水率が高い場合があるようです。 

樹種名

産地樹種名

生材含水率%

 

 

辺材

心材

(針葉樹)

 

 

 

1

 

159

55

2

 

148

113

 

153

34

赤松

 

144

34

トド松

 

212

76

エゾ松

 

169

41

(広葉樹)

 

 

 

クリ

 

103

91

セン

 

102

77

ミズナラ

 

79

72

シラカシ

 

64

83

シナノキ

 

92

108

 

 

 

 

出所

木材接着テキスト P28 2 (社)日本木材加工技術協会

 

 

 

 

樹種名

産地樹種名

生材含水率%

 

 

辺材

心材

(針葉樹)

 

 

 

米杉

western red cedar

249

58

米ヒバ

yellow cedar

166

32

米松

douglas fir, coast

115

37

バルサムファー

balsam fir

173

88

ノーブルファー

noble fir

115

34

米栂

Western hemlock

170

85

ロジポールパイン

lodgepole pine

120

41

レッドウッド

redwood,old growth

210

86

シトカスプルース

sitka spruce

142

41

 

 

 

 

(広葉樹)

 

 

 

ホワイトアッシュ

white ash

44

46

ホワイトオーク

white oak

78

64

シカモア

american sycamore

130

114

ウオルナット

black walnut

73

90

イエローポプラ

yellow poplar

106

83

コットンウッド

cottonwood

146

162

メープル

silver maple

97

58

アスペン

aspen

113

95

 

 

 

 

出所

木材ハンドブック 第3章 表3-3 米国林野庁




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